私たちのベランダに、ある日突然、完成した鳩の巣が出現するわけではありません。彼らの巣作りは、非常に慎重で、計画的で、そして驚くほど巧妙なプロセスを経て行われます。その初期段階である「作りかけ」のサインを正しく読み解くことは、被害を未然に防ぐ上で極めて重要です。鳩の巣作りのプロセスは、まず、オスとメスのつがいによる「物件探し」から始まります。彼らは、天敵であるカラスなどから身を守れる、三方が囲まれた、雨風の当たらない安全な場所を探し求めます。マンションのベランダの隅や、エアコンの室外機の裏、あるいは給湯器の上などが、彼らにとっての理想的な候補地となります。候補地を見つけると、彼らはすぐには巣作りを始めません。数日間、あるいは一週間以上にわたって、何度もその場所を訪れ、周囲に危険がないか、人間が出入りする頻度はどの程度か、といったことを、じっくりと偵察します。この段階で、ベランダの手すりなどに、長時間滞在する鳩のつがいを頻繁に見かけるようになったら、それは第一の危険信号です。「安全な場所だ」という確信を得ると、いよいよ巣作りが始まります。しかし、彼らは一気に巣を作るわけではありません。まず、オスが巣の材料となる小枝や枯れ草を一本運び込み、メスにその場所を提示します。メスがその場所を気に入れば、巣作りは本格化していきます。これが、私たちが目にする、最初の「作りかけ」のサイン、すなわち「数本の小枝」の正体です。この段階では、まだ巣の形にはなっておらず、一見するとただのゴミにしか見えないかもしれません。しかし、これを放置すると、彼らは日に日に材料を運び込み、数日後には、お皿のような形をした、簡素ながらも機能的な巣の土台を完成させてしまいます。そして、巣が完成すると、間もなくメスはその中に卵を産み付けます。つがいの頻繁な飛来、そして数本の小枝の出現。これらは、彼らが着々と進める巣作り計画の、初期段階の明確なサインです。このサインを見逃さず、彼らの計画を初期段階で頓挫させることが、何よりも重要なのです。