鳩が、一年中という過酷なスケジュールで繁殖を続けられる背景には、彼らだけが持つ、非常にユニークで優れた子育てのシステムがあります。その秘密の鍵を握るのが、「ピジョンミルク」と呼ばれる、特別な“母乳”の存在です。多くの鳥類の雛は、親鳥が捕まえてきた昆虫や木の実などを餌として育ちます。そのため、繁殖の時期は、それらの餌が豊富に手に入る季節に限定されます。しかし、鳩は違います。鳩の親鳥は、オスもメスも、自らの「素嚢(そのう)」という、食道の一部が変化した器官の内壁から、脂肪とタンパク質に富んだ、チーズのような、非常に栄養価の高い液体を分泌することができます。これが「ピジョンミルク」です。孵化したばかりの雛は、このピジョンミルクだけを飲んで、驚異的なスピードで成長していきます。ピジョンミルクは、親鳥が食べたものとは関係なく、自らの体内で生成されるため、たとえ冬場で昆虫や植物の種が少ない時期であっても、親鳥は雛に安定して栄養を供給することができるのです。このユニークな能力こそが、鳩が季節を問わずに繁殖できる、最大の理由です。雛が成長するにつれて、親鳥は、ピジョンミルクに、少しずつふやかした穀物などを混ぜて与えるようになり、徐々に固形食に慣らさせていきます。また、鳩のつがいは、非常に夫婦仲が良いことでも知られています。巣作りから、卵を温める抱卵、そして雛への給餌まで、すべてのプロセスをオスとメスが協力して行います。この献身的な共同作業もまた、過酷な都市環境の中で、確実に子孫を残していくための、彼らの優れた生存戦略なのです。一見、穏やかでのんびりしているように見える鳩ですが、その内側には、子孫繁栄のための、驚くほど合理的で、洗練されたシステムが隠されているのです。