その異変に最初に気づいたのは、妻でした。「ねえ、あなた。最近、エアコンの室外機の上あたりに、よく鳩が来てない?」。私は、「ああ、公園が近いからな」と、特に気にも留めませんでした。それが、後に続く長い戦いの、始まりの合図だったとは、その時の私は知る由もありませんでした。数日後、ベランダに出た私は、室外機の裏の狭い隙間に、数本の小枝が雑に置かれているのを発見しました。明らかに、人工的なものです。そして、その数日後、その小枝は、紛れもない「巣」の形を成していました。私は慌てて、棒でその巣を払い落としました。「これで大丈夫だろう」。しかし、その考えは甘かった。翌日、同じ場所には、昨日よりも多くの小枝で、より頑丈になった巣が、再び作られていたのです。鳩の驚異的な執着心を、私は初めて思い知りました。それから、私と鳩との、静かなる攻防戦が始まりました。私が巣を壊せば、鳩は次の日にまた巣を作る。その繰り返しです。そして、ある週末、私が油断して二日ほどベラン-ダの確認を怠った、その隙を突かれました。巣の中には、ちょこんと、二つの白い卵が産み付けられていたのです。私は、頭を抱えました。法律で、もう手が出せない。我が家のベランダは、その日を境に、完全に鳩の託児所と化してしまいました。それから約一ヶ月半。糞の臭いと、親鳥の羽音、そして雛が成長するにつれて聞こえてくる鳴き声に、私たちはひたすら耐え続けました。洗濯物は部屋干しになり、窓を開けることもできません。雛が巣立っていった日の朝、ベラン-ダが静寂を取り戻した時の解放感は、今でも忘れられません。私は、その日のうちに、ベランダ全体を覆う、巨大な防鳥ネットを注文しました。あの小さな命の誕生に、一瞬、感動を覚えなかったと言えば嘘になります。しかし、その感動と引き換えに失った、一ヶ月半の快適な生活の代償は、あまりにも大きかったのです。
我が家のベランダが鳩の託児所になった日