私が仕事で訪れたある古民家での出来事はスズメバチの巣作りがいかに計画的かつ迅速に行われるかをまざまざと見せつけられる貴重な体験でしたその家は数年間空き家となっており庭木は伸び放題で軒下も薄暗くまさにスズメバチにとって格好の物件となっていたのですが五月の初旬に調査に入った際南側の軒下に小さなフラスコのような形をした巣が一つぶら下がっているのを見つけましたその時はまだ大人の拳ほどの大きさで表面は美しいマーブル模様を描いており一匹の女王蜂がせっせと出入りを繰り返しているだけの静かな光景でした私はその後の経過を観察するために定期的にその家を訪れることにしたのですが二週間後に再訪した時には驚くべき変化が起きていました巣の下部にあった筒状の入り口は削り取られ全体が丸みを帯びた球体に近づいており大きさも一回り以上大きくなっていましたそして何よりも違っていたのは巣の周りを飛び交うハチの数で女王蜂だけでなく羽化したばかりの小さな働き蜂たちが数匹忙しそうに動き回っていたのです彼らは女王蜂が産んだ卵から育った第一世代であり母親に代わって巣材集めや幼虫の世話を引き継ぎ始めていましたこの段階に入ると巣の拡張スピードは幾何級数的に加速し訪れるたびに巣は目に見えて巨大化していきました六月の中旬にはバレーボールほどの大きさになり七月にはバスケットボール大へと成長し表面の模様もより複雑で堅牢なものへと変化していました働き蜂の数も数十匹から百匹近くに増えておりかつて静かだった軒下は威圧的な羽音が響き渡る危険地帯へと変貌していました巣の素材となる木の皮も近所の庭木や神社の柱など様々な場所から集められているらしく巣の表面には茶色や灰色やベージュなど多様な色が層を成して重なり合いまるで現代アートのような様相を呈していましたがその内部では数百もの幼虫が蠢き次々と新たな成虫が送り出されていると考えると背筋が凍る思いがしました最終的にその巣は秋には直径五十センチを超える巨大な要塞となりましたがこの一連の観察を通じて痛感したのは初期の段階での発見がいかに重要かということでありあの小さなフラスコ型の巣が見逃された結果わずか数ヶ月でこれほど巨大な脅威へと成長してしまう自然の摂理の凄まじさを目の当たりにしたのです。
古民家で目撃したスズメバチの増築工程