リラックスしている入浴中に、足元や壁を這う黒光りした長い物体を目にした時の衝撃は、言葉では言い表せないほどの恐怖です。風呂場に現れる害虫の中でも、ムカデはその獰猛な攻撃性と強力な毒を持っていることから、最も遭遇したくない危険生物の筆頭と言えるでしょう。ムカデは湿気を好み、わずかな隙間さえあれば侵入できる能力を持っているため、浴室は彼らにとって格好の狩り場となります。特に梅雨時から夏にかけての活動期には、餌となるゴキブリやクモを追って、排水溝の隙間や換気扇、窓のサッシ、あるいは浴槽のエプロンの裏側などから堂々と侵入してきます。もし入浴中にムカデを見つけた場合、絶対に素手で触れたり、無防備に踏みつけたりしてはいけません。彼らは触れられた瞬間に反射的に噛みつく習性があり、その顎の力は強く、毒液を注入されると激しい痛みと腫れを引き起こします。浴室でムカデを駆除する際、最も有効な武器となるのは「熱湯」と「シャンプー」です。殺虫スプレーを取りに行く余裕がない場合、五十度以上の熱湯をシャワーで浴びせ続けることで、ムカデの動きを止め、死に至らしめることができます。また、シャンプーやボディソープを大量にかけると、ムカデの体表にある気門(呼吸口)が塞がり、窒息死させることが可能です。万が一、噛まれてしまった場合はパニックにならず、冷静な対処が求められます。まず、毒を絞り出すようにしながら、四十三度から四十五度程度のやや熱めのお湯で患部を洗い流します。ムカデの毒は熱に弱いタンパク質酵素を含んでいるため、温めることで痛みを緩和し、毒の活性を抑える効果が期待できるとされています(ただし、冷やすと痛みが強まることがあるため注意が必要です)。その後、抗ヒスタミン剤含有のステロイド軟膏を塗り、痛みが激しい場合やアナフィラキシーショック(呼吸困難、めまい、吐き気など)の症状が出た場合は、迷わず救急車を呼ぶか医療機関を受診してください。ムカデの侵入を防ぐためには、排水溝に細かいネットを張る、換気扇を回して乾燥させる、家の周囲の雑草を刈り取って風通しを良くするといった環境整備が不可欠です。風呂場という無防備な空間で最強の害虫と戦わないためにも、日頃からの隙間対策と湿気対策を徹底し、彼らを寄せ付けない結界を張ることが何よりの防御となるのです。