入浴中に天井の隅や窓枠の近くで、じっと動かないクモを見つけたとき、反射的にシャワーで流してしまいたくなる衝動に駆られる人は多いでしょう。しかし、少し待ってください。そのクモは、あなたの家にとって有害な存在ではなく、むしろ頼もしい味方かもしれません。風呂場によく現れるクモの代表格は、体長一センチメートルにも満たない小さな「アダンソンハエトリ」や、長い脚を持つ「イエユウレイグモ」、そして大型で素早い「アシダカグモ」などです。彼らは基本的に毒を持たず(あるいは人間に効くほどの毒はなく)、吸血もしなければ、食品を荒らすこともありません。彼らが風呂場にいる唯一の理由は、そこに餌となる獲物がいるからです。ハエトリグモはコバエやダニを、ユウレイグモやアシダカグモはゴキブリやチョウバエを捕食するために、わざわざ湿気の多い風呂場まで出張してきているのです。つまり、クモがいるということは、風呂場のどこかに目に見えない害虫が潜んでいるという証拠であり、クモはその害虫をせっせと駆除してくれている「天然のバイオ殺虫剤」と言えます。特にアシダカグモは、一晩で数匹のゴキブリを平らげるほどの大食漢であり、その狩猟能力は殺虫剤以上とも評されます。したがって、実害がない限りは、無理に殺さずに放置しておくのが、生態系のバランスを利用した賢い害虫対策となります。とはいえ、クモの巣が張られて見栄えが悪かったり、どうしても見た目が不快で耐えられなかったりする場合もあるでしょう。その際は、殺虫スプレーを使うのではなく、紙コップや瓶を使って捕獲し、窓の外に逃がしてあげるのが紳士的な対応です。また、クモを追い出すための根本的な方法は、彼らの餌となるコバエやゴキブリを絶つことです。排水溝の掃除を徹底し、換気をして乾燥状態を保ち、他の害虫がいなくなれば、クモも自然と餌を求めて別の場所へと去っていきます。クモの巣がある場合は、カビキラーなどの塩素系漂白剤をかけると巣のタンパク質が溶けて簡単に除去できます。風呂場のクモは、あなたの家の衛生状態を映す鏡のような存在です。彼らを敵視する前に、彼らが狙っている「真の敵」の存在に目を向け、環境改善のきっかけにすることで、人間にとってもクモにとっても(外の世界へ行くという意味で)幸せな結末を迎えることができるでしょう。